
みどり市大間々、上毛電鉄「赤城駅」から徒歩5分の3階建てのビル。10年以上使われていなかった、元家具屋だったこの場所は、リノベーションを経て、2025年3月に「古材古道具とカフェ ひの芽」として生まれ変わりました。

大きなガラス戸から店に入ってすぐ、1階にはカフェスペースが。棚に並んでいるコーヒーカップから好きなものを選び、サイフォンで淹れたコーヒーと、焼き菓子店「赤城山ホテル」が作ったおいしいルベンクッキーをいただきます。カップが気に入ったら、そのまま買って帰ることもできます。
一息ついてから2階に上がると、古道具の売り場が広がっています。一癖ある花瓶、面影を感じる椅子、味わい深いランプや工具。それぞれが、かつてどこかで誰かが使っていて、「また誰かに使ってほしい」という思いが込められたものたちです。

代表の栗原大輔さんは、「ひの芽」を開業するまでに、バックパッカー、飲食店店主、ゲストハウスの運営を経験。
「群馬に、“気持ちのいい経済”を循環させたいんです」
そんな思いでこの場所を開いた栗原さんに、オープンまでの道のりや、いま思い描いていることについて伺いました。
「簡単には捨てられないもの」の価値

(栗原さん提供写真)
「旅をする中で“みんなで飯を食う”ということの楽しさを知って、いつかこんな場所を自分でも開いてみたい、と思うようになったんです」
大学卒業後、2年間ほどバックパッカーとして世界中を旅した栗原さん。各地の食堂や宿で、初めて会った人たちと食卓を囲むこと。言葉は分からなくても、なにか良いものを分かち合っているような感覚 ―― この経験をきっかけとして、帰国後は居酒屋の店長として働き始めたそうです。
「でも、実際にやってみると、求められたのは『早く・安く・うまく』だけ。居酒屋だから、当たり前といえば当たり前なんですけど。お店をやりくりすることに必死で、お客さんと交流するタイミングがほとんどありませんでした」
もっとゆっくり、人と向き合える場所を作りたい。当時、さまざまな地域でまちづくりのキーワードとなっていた「スローライフ」的な価値観との相性も視野に入れつつ、栗原さんは2019年に赤城山のふもとでゲストハウスを開業しました。

築130年の古民家を改装したゲストハウス。やってくるお客さんたちの話を聞いていると、あるパターンが浮かび上がってきました。
「『こんな田舎に住んでみたいけど、物件がなかなか見つからない……』という声がたくさん聞こえてきました。僕はゲストハウス周辺の赤城山麓で生まれ育って、周りは空き家ばかりだと思っていたから、これは意外でした」
そこで栗原さんが地域の物件について調べてみると、「人は住んでいないけど、空き家になっていない」場所が多いことを知りました。

「その理由の多くが、ものがいっぱいで片付けられないから、というものでした。思い出深かったり、当時高額で買ったものだったり、単純にサイズが大きかったりといろいろな理由がありますが、そういうものは簡単には捨てられないですよね」
美術品を買い取ってくれるアンティークショップや骨董屋はあっても、昭和の時代の普遍的なもの――たとえば、桐箪笥、茶碗や急須、農具など――に価値を認めて引き取ってくれるところがない。そしてその機能は、この街に必要なのかもしれない。ここに、栗原さんの古道具屋としての原点がありました。
物語ごと、レスキューする

転機になったのは、長野県諏訪市にある「リビルディングセンタージャパン」、通称リビセンとの出会いでした。
「リビセンは古材と古道具を回収して販売している、いわば地域資源のリユースカンパニーで、ひの芽のルーツになっている会社です。リビセンには活動を手伝えるサポーターズという制度があるのですが、当時は積極的に募集はしていなくて……。それでも諦めきれず、とんでもない長文のメールを送って、なんとか入りこませてもらいました(笑)」
リビセンで古道具の回収、掃除、陳列などさまざまな活動を体験した栗原さん。現場で手を動かしながら、こんなことを考えていました。
「回収先から感謝され、買う人からも感謝され、働いてる人も超笑顔。古道具回収販売のノウハウだけでなく、この雰囲気を持って帰りたいと思うようになりました」

ひの芽では、古材古道具の回収を「レスキュー」と呼ぶ。これは、リビセンから受け継いだ言葉だ。基本的には、依頼者から連絡をもらって、栗原さんたちが取りに行く形式を取っている※。
※店舗から車で1時間以内まで無料。それ以上は買取額から交通費を差し引く形で対応
店舗営業の隙間をぬって、日々届くレスキューの依頼に対応している栗原さん。ひの芽では、昭和につくられた木製のアイテムが人気だそうですが、最もレスキューしたいのは「次の担い手が想像できるもの」と、「物語があるもの」。
「最近は、120個近くの鳥かごをレスキューしました。依頼者さんに『親父が一生懸命作った鳥かごなんだ』って熱弁されて、正直、あんまり売れる気はしなかったんですけど……その熱意に乗っかって、買い取ることにしました。だって、ウチしか引き取れないじゃないですか」

鳥かごを店頭に置いてみたところ、意外にも買っていく人が続出。インテリアとして飾ったり、植物を入れたり……鳥かごにはいろいろな使い方があることを、お客さんから学んだそうです。
「不思議と、依頼者の方の思いが強いものほど、よく売れるんですよね。僕がたくさん喋るからかもしれないけど(笑)」
まちを繋ぐ中間地点として
ひの芽にカフェを併設したのは、古道具に馴染みがない人にも、触れ合うきっかけを作りたかったからだといいます。
気に入ったコーヒーカップでコーヒーを飲んでみる。かわいいと思った椅子に座ってみる。そういった体験から、古道具への興味が始まることを願って。


抹茶クランブルクッキーと、はちみつレモンソーダ
「あと……この街には、カフェが少ないんです。喫茶店はあるんですけど。若い人がちょっと滞在できるような機能としてのカフェが必要だと思って。Wi-Fiがあるとか、地味に大事じゃないですか(笑)」
ひの芽の周辺には、わたらせ渓谷鐵道のトロッコ列車や、高津戸峡の紅葉などの観光資源があり、また日光などの観光地にも近い地域です。観光の前後に時間をつぶしたい人や、移住相談等で街巡りをしている人が立ち寄れる場所。それも「ひの芽」の大きな役割です。
「このあたりには、おいしいパン屋、いい花屋、駅に近いから居酒屋もあります。そういう意味でも、途中で着地できる場所は、やっぱり必要だと思うんです」
ひの芽で提供するコーヒーは、前橋市敷島町のSHIKISHIMA COFFEE FACTORYから仕入れた豆を使用。いつもコーヒーだけ飲んで帰る常連さんもいるそうです。


最後に囲まれていたいもの

「樹木希林さんが晩年、著書やインタビューで『若い頃は見栄でものを買っていたけれど、歳を重ねるにつれて、本当に愛着のあるものだけを大切に使うようになった』ということを語られていたんです。確かに、と思って。おもしろくて愛おしいものが家にあるほうが、絶対に楽しいじゃないですか」
AIをはじめとしたテクノロジーが進歩している今だからこそ、「愛着のあるもの」の役割が大きくなっている。なぜなら、私たちの暮らしを、てっとり早く豊かにしてくれるはずだから。栗原さんは、そう考えます。
「古道具のハードルをできるだけ下げて、もっと地域に流通させていきたいと思っています。だから、世界観の強い“古道具屋”というより、どちらかと言うと“リユースショップ”のように、どんな世代でも安心して入れる店を目指しています」
最新の便利なツールもいいけれど、かわいさに惹きつけられて、つい手に取ってしまったものを一つ、部屋においてみる。それだけで生活の景色がちょっと変わる。
そんな瞬間の積み重ねが、この街の経済を少しずつ変え、「気持ちのいい空気」が流れる場所になっていくのかもしれません。

ひの芽|古材古道具とカフェ
所在地:群馬県みどり市大間々町大間々1480-2
東武線・上電「赤城駅」より徒歩5分
わたらせ渓谷鐵道「大間々駅」より徒歩11分
営業時間:11:00-18:00(木金定休)
駐車場8台あり





