光や風と調和する リノベ物件で人気の美しいガーゼカーテンができるまで

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岩井光子 ライター/編集

Photo by市根井

インタビュー

リモートワークが増えた昨今、窓のカーテンを眺める時間が増えていませんか? 考えてみれば、部屋のかなりの面積を占めるカーテン。「“既製”という言葉があるので、どのカーテンも大体同じだと思われるかもしれません。でも、建物も違えば、お客さまも違う。一つとして同じ窓はないから、カーテンも一つひとつ違うんです」と話すのは、富岡市藤木でカーテンメーカー「リオ」を営む西川佳織さん。母がやっていたカーテンの仕事を引き継いで24年前に法人化した後、肌触りの良いガーゼ地の質感を活かしたシンプルなカーテンを開発。無垢な布の特性をそのままデザインに落とし込むユニークなカーテンメーカーとして、そのブランド力を磨いてきました。素材のありのままを活かしたリオのカーテンを知ると、今までのカーテンの“常識”が、心地良く解き放たれていくのを感じます。


生きもののようなカーテン

幼い頃、リビングの大きなカーテンが好きで、ぐるぐると巻きついてみたり、レールにシャーッと走らせたり、散々遊んで怒られた記憶があります。実家ばかりでなく、祖父母宅のカーテンの柄をふと思い出すこともありますから、カーテンへの愛着は子ども心にかなりのものでした。

リオの看板商品は、ガーゼカーテン。西川さんに取材をさせてもらった事務所兼工場の木造家屋にもかかっていました。午後の日差しの温もりが感じられ、風を含むとロングスカートのようにふんわり膨らんで優しい表情を見せます。白い布地が光や風とたわむれる様子は有機的で、ともすると生きものみたいに見えます。子どもの頃こんなカーテンに出合っていたら、さぞかし楽しかっただろうなあと思いました。

ガーゼカーテンは湿気や乾燥で目に見えて伸び縮みする。
販売サイトには窓際に霧吹きが一緒に写っていて、
「丈が短くなったらシュッとお水をかけてあげてください」とあった。
本当に生きものなのだ

「多分皆さんがカーテンに求める機能は目隠しというか、プライバシーを保護することだと思いますが、そうでないカーテンが欲しかった。カーテンを閉めている時も中から外は見えて、外から見てもそれほど閉めている雰囲気にはならない。光が入ってきて、風を感じられる、そんな生地で作りたいというビジョンは先にありました」、と西川さん。

西川さんは、ガーゼカーテンの元となる織り上げたままの生地「生機(きばた)」を見せてくれました。

生機は織りたての繊細な布なので糊(のり)がついている。
この糊を落としてカーテンに加工すると空気を含んでふわっと軽い感じが出る。
「不思議でしょ?」と西川さん 

西川さんは作る前から「不思議と着地点はわかっていた」と言います。自分の中の完成イメージを頼りに都内の布問屋を歩き回り、ほんの端切れサイズでしたがイメージ通りのサンプルを見つけました。

「これ欲しいんですけど、と話したら織元(製造元)を紹介してもらえました。さっそく買いつけに行ったらこの生機が出てきて。うーん…、確かにこれだけど、私が見つけたサンプルとは違う。そう話したら職人さんに、じゃあどうしたらそのイメージに近くなるか、自分で考えてみろと言われました」

「洗う」という解答はすぐに出たものの、そこからは苦労が続きました。

「普通に洗ったらシワシワになってしまって、それをミシンで縫うのはかなり困難でした。きれいな縫製ができなくて、縫っては、ああダメだとなって、納得いくレベルになるまで悶々としました。会社のみんなは私が何をやっているかわからないから、遅くまで縫い方や洗い方を試行錯誤していると、早く帰れとか言われて(笑)」

生地のクセをつかむと、ヒントは糊を落とす時の洗い方にあることがわかっていきました。「こう洗うとこうなるっていうのが、他の素材と同じだってわかったんです。洗い方、ですかね。そんなに難しいことではないんですけど」

2万mの買い取りを条件に織元に売ってもらった生機を使い、
ガーゼ地の肌掛けも作った。肌触りが好評で、
富岡のまちやど「蔟屋」がクラウドファンディングを行った際の返礼品に使われた

価格競走とは距離を置いて

素材の良さを重視したオリジナルカーテンを作るようになったきっかけは、20年くらい前のこと。大手インテリアチェーンが台頭し、価格競争が激化。リオもその波の渦中でもがいていた一時期がありました。

「下手すると7、8割値引くみたいなことを平気でやる量販店が出てきて、じゃあ、メーカーがつける価格(上代)って何なんだろうって。高い値段つけて大きく割り引けば、数字的にはお客さまをだませるじゃないですか。そういうのがすごく嫌だなぁと思って。良いカーテンを適正な価格で売りたいと思いました。皆さんが普通に買えるような価格設定をして、オーダーしてもらって、工場がいつも稼働しているようにして、持続させたい。重い見本帳を抱えてお客さまのところへ行って、生地はこの中から選んでくださいみたいな販売方法だったら、私でなくてもできる。せっかく工場があって、みんながんばって縫っているのだからやり方を変えなければ。そう決めたら自然と視野も行動範囲も広がっていきました」

リオのようにカーテン一本でやっているインテリアメーカーは富岡市内にはなく、群馬県内を見渡しても珍しいそうです。「普通はどこかの下請けに入って内装工事をやって、カーテンの仕事はもらう。カーテンだけでは回らないというのが、業界の常識だと思います」

理想は“思い出せない”カーテン

西川さんは高校卒業後、父親が大工だったこともあり、建築の勉強をするために住宅メーカーに就職しました。

「会社では、設計から現場管理、不動産、営業、積算、施工管理までひと通り勉強させてもらいました。7年ほど勤めて仕事は面白かったんですけど、そういえばインテリアの仕事をやってないなと思った時、母親が内職でずっとカーテンを縫っていたことに気づいたんです。母親の長年の経験がベースにあるし、インテリアの仕事もカーテンから始められるかもしれないと思って会社を辞めて、リオを始めました」

素材を活かすというリオのカーテンの方向性は、西川さんが建築というインテリアの外側の世界を経験したことも少なからず影響しているようです。

「ひと昔前は建築雑誌でお客さまのところへ取材に行くと、撮影準備でまずカーテンを外して、ごみ箱を片付けるみたいな段取りがあったんですよ。ひと通り生活感はなくすというか(笑)」

カーテンをかけると生活感が強く出るので、建築家は自分の作品にカーテンが写ることを好まない時代がありました。今では景観が重要視され、外から見た美しさを大事にする建築家が多くなり、カーテンも含めた窓は、最も重要なデザイン要素のひとつと考えられています。

西川さんは目指す理想のカーテンについて、こう語ります。

「遊びに来ていた友だちが家に帰ってから、『えーと、どんなカーテンだったっけ?』とすぐに思い出せないようなカーテンを作りたい。主役はあくまで家と住む人だから、カーテンをほめられたらNGだと思っているカーテン屋なんですよ(笑)。でも、なければ困る。用途を満たすには邪魔にならないものであることが必要。だから、打ち合わせもカーテン以外の雑談が長い。好きなものとか、最近出かけたところとか」

建物というハードな部分からカーテンを見ていた客観的な視点が、西川さんのバランス感覚を磨いたように思いました。さりげないカーテンほど、最高に心地良い空間をサポートしている証、ということなのかもしれません。

「小さい頃は学校から帰ってくると、布を測ったり、切ったりを手伝わされるし、
忙しいと母はずっとミシン踏んでいるし、
絶対カーテン屋なんかにならないって思っていたんですけど、なっちゃいましたね(笑)」

リノベ物件に似合うカーテン

ここ20年ほどの間、カーテンは多様化しました。部屋をファッションのように統一されたコンセプトでコーディネートする手法も浸透し、輸入既製カーテンもバラエティに富んでいます。遮光・遮熱・防音など機能性を重視したカーテンも次々と登場し、選択肢は広がりました。

多様化の時代、リオのようなナチュラル志向のカーテンをどんな層にPRしていくか。そんな時に西川さんが出合ったのが、「toolbox」という本でした。

リノベ物件を専門とする東京R不動産のグループ会社
TOOLBOXが2013年に発刊した「toolbox」。
床材、壁材、建具に塗料、DIYツール、細かなパーツまでアイテム約千点が掲載され、
自分で空間を“編集する”楽しみが膨らむ一冊

近年のリノベブームの仕掛け人ともいわれる東京R不動産。中古住宅の隠れたポテンシャルを引き出すリノベの面白さを、お客さん自身も体感できるようにと開設されたのがtoolbox。引き出しの取手に至るまでをバリエーション豊かにサイトに一挙掲載し、家づくりの可能性を無限に広げました。

toolboxの愛好者には、引っ越しても使えるよう床材を固定しないではめ込むスタイルにし、木の経年変化を愛でる人もいるそうです。自分の好きなものを他人の評価にとらわれず取り入れたいと考えるユーザーが集まるtoolboxとリオのカーテンは、非常に相性が良さそうでした。

「売り方をきちんと考えていかないといけないなと思い始めた頃、タイミング良くこの本に出合ったんです。あ、ここならカーテン売れるかも、と思って、サンプルを送って猛アタックしました。toolboxのカーテンレールには、うちのカーテンが似合うと思うんですけどーって(笑)」

半年ほど経つと、インテリアブランドからTOOLBOXに転職してきた女性が、俄然ガーゼカーテンに興味を示してくれました。

「『机の上にバサって置いてあったガーゼカーテンを見つけたんですけど』って、連絡をくれたんです。なんと群馬出身の方でした! はじめからすごく気が合ったし、うちのカーテンのことをよくわかってくださいました。toolboxで採用されたことは、すごくラッキーだったと思います。彼女は、私が適当にしゃべることを文章にしてくれて、ホームページを作ってくれて、『このくらいでどうですか?』って価格もどんどん提案して設定してくれて、私が苦手とする部分を親身になってカバーしてくれました」

「男の人だとギャザーがたくさん入った“ザ・カーテン”みたいなデザインを
好まない人もいるんですよ。帆布カーテンは、そういう方に向けた商品ですね」
(後ろにかかっているのが帆布カーテン)

群馬出身の担当者との思わぬ出会いから、ガーゼカーテン以外のラインナップも広がっていきました。「こんなカーテン作りたいね」と話しながら、生地やデザインを決めていったそうです。

例えば、シーチングという綿シーツ生地のカーテンは、通常ならたっぷりとる裾の折り返しを短くし、カーテンというより飾り気のない布感を強く押し出した商品。また、リトアニア産のリネンを使用したカーテンは、プレス加工で施した“しわ”が魅力。通常なら裁ち落として捨ててしまう “耳”と呼ばれる端っこをあえてアクセントとして残してあります。そして、厚手の帆布カーテンは、ドレープが入れられないので、すとんと幕が降りているようなイメージ。多少色あせもしますが、これをデメリットととらえず、むしろデニム感覚で楽しんでほしいという商品。どれも、自然素材の特質を活かしながら、無骨でシンプルなリノベ物件にも合うよう、カーテンの常識からややはみ出した個性を持たせているところが魅力です。

自然素材を主力にする一方、アートなカーテンの注文にも対応できる。
西川さんも気に入ってしまったという
黒いレースの大きな円をデザインしたオーガンジーのカーテン

技術の継承とカーテンの先

toolboxを通した販売を軸に、百人百様のカーテンをデザインしてきたリオ。仕事は順調ですが、現在51歳になった西川さんは、技術を継ぐことについて考える時間が多くなったと言います。

「せっかくある技術ですから、人に譲っていくこともそろそろ考えたいと思っています。雇用とか、偉そうなことを言おうとすると口がモゴモゴしちゃうんですけど(笑)、働く場所の候補として工業という選択肢があることを若い人たちに知ってもらいたい。意欲のある人の向上心に合う仕事をどんどん出していって、もっと楽になりたいなぁって(笑)」

ふんわりとした語り口で、終始柔らかな印象だった西川さんですが、最後に「これからやりたいことは?」と尋ねると、布に対する並外れた感度の高さが伝わってきました。

「趣味が山登りなんですけど、山登りの服って素材が良いんですよ。山着の素材を家に落とし込めないかなと最近よく考えています。自然の中で寝ているような感じになる部屋とか、子どもがほっといても自主的に遊びを発見できる場とか。まだ明確なビジョンはないんですけど」

「あと、もう一つ思っているのは小学生のランドセル。なんで革なのかなぁって。私なら鞄にしまわずに中身を人に見せたいと思っちゃう。スケスケの鞄みたいな(笑)。学校が決まりだからって一方的に蓋をしてしまう子どもの好奇心を開かせてあげるようなこともしてみたい」

西川さんの観点はカーテンのカテゴリーを越えてしまっていましたが、素材の心地良さ、好奇心の解放という点ではガーゼカーテンの出発点と相通じるのかもしれません。リオの商品開発の原点をのぞかせてもらったような気がして、なんだか楽しくなりました。

【リオのカーテンを購入するには】

  • toolboxのカーテンサイトからオンライン購入。※実際の布の手触りなどを確認したい場合、サンプル無料送付のサービスもあります。
  • リオの本社で購入。事前にトップサイト下方にある問い合わせフォームに記入して送付、来店日を調整の上、お出かけください。

※手作りのため、発注から納品までに10日から2週間ほどかかる(繁忙期はもう少しかかる場合も)ことをご承知おきください。

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