群馬県産こんにゃく100%、30年のロングセラー。肌にも環境にもやさしい洗顔スポンジが「地方のお土産」から「世界で人気のブランド」になった話

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市根井直規 まちのわーくす

Photo by市根井直規

インタビュー

その昔、群馬県にあった「こんにゃくをたわしにして体を洗う」文化。それをスポンジとして現代に蘇らせ、世界で売れ続けるロングセラーに育て上げた山本農場へ取材しました。

全国で食べられているこんにゃくの約9割は群馬県で生産されています。こんにゃくは、その成分のほとんどが水。利根川の清流と上毛三山の恵みをたっぷり受けたこんにゃくは歯ごたえがよく、煮物の具材や刺し身など様々な楽しみ方があります。

富岡市にある山本農場では、そのこんにゃくを食品ではなく「洗顔スポンジ」に加工。たくさんの水を含んでふっくら膨らんだスポンジはキメが細かく、ぷるぷるとした、それでいて少しざらざらしているような、独特で不思議な使用感が評判です。

商品化から30年以上にわたりユーザーに愛され続け、現在は国内だけでなく海外からの注文も殺到。もともとは道の駅や一部の観光地で売られていた「地方のお土産」だったこんにゃくスポンジがグローバルに展開していった秘訣について、山本農場の専務取締役・山本直人さんにお話を伺いました。

100%こんにゃくだけで作る「ちょっと面倒なスポンジ」

山本農場 専務取締役・山本直人さん

─「こんにゃく」と「スポンジ」の組み合わせ、ちょっと想像がつかないのですが、一般的なスポンジとはどう違うのでしょうか?

こんにゃくはアルカリ性食品で、人間の垢や汚れは弱酸性ですので、石鹸を使わなくても水だけで汚れが落ちるのが大きな特徴です。また、こんにゃくの弾力とぬるぬる感を活かした独特の使用感があり、ふつうのスポンジでは肌が荒れてしまう、という方でも安心してお使いいただけます。

─触ってみてもいいですか。……おお!本当にこんにゃくです。すごく水を含むんですね。

おっしゃる通りで、抗菌剤や防腐剤を使わず、本当に群馬県産のこんにゃく100%で作っています。その代わり、使用後の保存が少し手間なんですけど。使い終わったら握って水気を切っていただいて、チャック付きポリ袋やタッパーに入れたのち、冷蔵庫に入れてもらう……というのを、メーカーとしては推奨しています。

抗菌剤、防腐剤を入れれば手間をかけなくても日持ちしますが、使用感の気持ちよさが損なわれてしまいますので。そこを犠牲にしないためには、やっぱりこんにゃく100%である必要がありますし、面倒なのですが保存のお手間をいただいています。

始まりは、ひいおばあちゃんの知恵

─こんにゃくは日本人、特に群馬県民には馴染み深い食べ物ですが、これをどうしてスポンジにしようと思ったのですか?

「こんにゃくをスポンジにすること」、これは実は弊社で発明したわけではなく、群馬県の文化なんです。こんにゃくはご存知のとおり群馬県の名産で、山本農場も富岡市でこんにゃくと下仁田ネギをつくる普通の農家でした。

約100年前の山本農場。荷車を引いている方が創業者だそう

当時は我々に限らず、各家庭が家族で食べる分のこんにゃくを作っていたわけですが、食べきれないから毎年余るんです。冬場、これを外に出しておくと、群馬県の寒い気候、そして山から吹き下ろす「からっ風」によって良好な乾燥状態で冷凍されて、「こんにゃくたわし」になったんです。昔はガーゼのような柔らかい布が手に入らなかったので、こんにゃくたわしで赤ちゃんの体を洗っていたそうなんです。

この話は、私の妹が生まれた時に曾祖母が社長(山本さんの父)に話したものです。こんにゃくたわしで体を洗ってあげなさいと。それで実際に妹の体を洗ってみると、気持ち良いような、くすぐったいような、良い表情をしたものですから、これは商品にできると確信したのだと思います。

─なるほど……!もともとは農家の知恵だったわけですね。

そうですね。これまでにも農業以外の方法、たとえば野菜の直販などを始めてなんとか生き残ろうとしたそうですが、やっぱり自社オリジナルの製品が必要だとなり、本格的に開発を始めました。

備長炭を練り込んだこんにゃくを型に入れていく。工場内に立ち込めるこんにゃくの香りでお腹が空いてしまいそう

─実際に市場に出るまでに、どれくらい時間がかかりましたか。

最初は自宅の一室を仕切って乾燥機を置き、こんにゃくをぶら下げて乾燥してみることからスタートしましたから、数年ほどかかっています。今こそ握ればじゅわじゅわ……と水が出てきますが、最初は針で開けた穴から水鉄砲みたいに水が拡散するようなもので、さすがに商品化できなくて。さらに衛生環境も整えて、品質も一定になるように作らないといけませんからね。

─こういった商品開発は果てがないような気がしてしまいますが、これなら製品化できそうだ!と思えた決め手は何だったのでしょうか。

やっぱり、使ったときの気持ちよさですね。先程言ったように使用後の手間はどうしても省けないので、余りあるメリットを感じていただかないと商品としての需要がなくなってしまうわけですが、これで約30年会社が続いていますから、使用感のクオリティを突き詰めたことは間違っていなかったのかなと思っています。

乾燥室で出荷を待つこんにゃくスポンジ

─ちなみに、山本農場の本社は富岡市で、工場は佐久ですよね。こちらに製造の拠点を移したのは、どういった理由からですか?

水が違うんですよね。八ヶ岳の雪解け水の質がこんにゃくスポンジに合っていて。また、このあたりは夏場でも気温が上がりすぎないため、温度管理がしやすいのも大きな理由です。冷凍の環境が最も商品の質に影響しますので。

ナチュラルなだけでなく、サステナブルでなくてはならない

─生産者が6次産業に参入しても、それが必ずしもうまくいくわけではないと思うのですが、山本農場の場合はどうやって販路を広げたのでしょうか。

こんにゃくスポンジを商品化した当初は、道の駅や温泉地で「群馬名産のおみやげ」として売られることが多かったと思います。そこから十数年経ち、東京の会社の目に留まったことからパッケージを巾着に入れたり、和紙に包んだりして「日本伝統の和風コスメ」としてブランディングすることが始まりました。

それも最初は東京都内が主戦場でしたが、昨今はインバウンドが主流になり、売り場は成田空港、羽田空港、浅草などにも展開しています。最近では海外からのお問い合わせのほうが圧倒的多く、輸出が全体の売上の半分近くにのぼっています。

─ローカルを突き詰めたからこそ、グローバルに展開していったのですね。

そういうことになりますかね。正直私も想像していなかったし、社長も想像していなかったと思います。そもそも文化的にこんにゃくを食べるのは日本だけですし、ヨーロッパでは「こんにゃくって何?」と言われるくらいなのに。

─日本と海外とで、商品への要望は異なるものですか?

アジア圏と欧米とで、大きな違いがあります。例えばフランスからは、前々から「梱包にビニールを使わないでくれ」「ダンボールの古紙の配合率は何%以上にしてくれ」というオーダーがありました。こんにゃくスポンジはナチュラルコスメで、層としてはエコ・SDGsを大切にしているお客さまが多いので、ナチュラルなだけでなくサステナブルでなくてはならないということです。

そこで、なにか旗印になるような商品を作ってみよう……となり、「KOMACHI」というオリジナルブランドができあがりました。KOMACHIは、まずパッケージが再生紙100%の森林認証紙。中に入っているのは、再生紙の取扱説明書と、オーガニックのこんにゃく粉を使ったスポンジのみ。プラスチック由来成分を一切使っていないので、土に埋めれば全て分解されます。

パッケージがこのような形なので中身が見えないのですが、運搬中や売り場陳列中に生分解が進んでしまったら開封前の寿命が短くなってしまうので、このようなパッケージに落ち着きました。

─オーガニックのこんにゃく粉、というものがあるのですね。

群馬県でも1%も採れないような貴重なこんにゃく粉で、原料は認定機関の認証を受けたものになります。地球に負担をかけない商品を、というのが、欧米ではスタンダードになっているんです。

もうひとつ、アジア圏でよく売れているのは「ジューシー」というブランドです。こちらは海外ブランドとの差別化ということで、「日本伝統のもの」「食べられるくらい安全安心」といったコンセプトで、カラフルに展開しています。

─自社ブランドを持ったことによって得られたものは、やはり大きいですか?

私たちはもともとOEMメーカーで、製品を作るだけでした。周囲からは「自社ブランドを持ったほうがいい」と言われていたのですが、当初は受け流していまして……。でも、「群馬県の伝統的な文化から始まった、こんにゃくだけで作るスポンジ」を大切にするという弊社の考え方を社会に伝えていくには、やっぱりシンボル的なものが必要だと思ったんです。ですから、パッケージも商品自体も究極の形にしました。

世界的には韓国や中国メーカーのシェア率が高いですが、結果的に「うちの商品が良い」と買ってくださるお客さまは多く、パリでのエステサロンでは5年ほど、年間10万個の注文を続けてくださっているところもあります。

─今後は、どのような展開を予定していますか。

これまでは「伝統と文化」「お客さまの声」などを中心とした質的データをクオリティの根拠として使ってきたのですが、今後は「実際にどれくらい汚れが落ちているのか、どれくらい肌に優しいのか」などの数値的なエビデンスを得るために、いろいろと検証していきたいと思っています。

 

こんにゃくスポンジは富岡市の観光物産館「お富ちゃん家」、またはオンラインショップで購入することができます。

山本農場 公式サイト
https://www.yamamotofarm.co.jp/

こんにゃくスポンジ オンラインショップ
https://konjacsponge-japan.com/

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