おしゃべりしながらチーズを選ぶよろこびを。まちの本格チーズ屋さん、モンテドラーゴ

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今井夕華

Photo by市根井直規

インタビュー

JR高崎線、高崎駅から車で約10分。小さな公園の近くに、フロマージェリー「モンテドラーゴ」はあります。扉を開けるとまず目に入るのは、チーズがずらっと並ぶショーケース。大きめのブロックで存在感のあるハードタイプから、フレッシュタイプまで多種多様で、普段スーパーでは見かけないような珍しいチーズも。住宅街にこんなに本格的なチーズ専門店があったなんて、と驚いていると、明るい笑顔のオーナーご夫婦が出迎えてくれました。

生活に寄り添うチーズショップを目指して

山本清喜(せいき)さん、祐子さんご夫婦がこの場所でチーズ専門店を始めたのは、2000年5月のこと。東京のチーズ卸会社で出会い、結婚したお二人は「いつか自分たちのお店を持つ」という夢を、自然に思い描いたと話します。

【白カビタイプチーズ】表面に白カビを繁殖させて熟成させるチーズ。熟成が若いうちは硬く芯をもち、だんだんと柔らかくなめらかな食感に変化していく。脂肪分が高いものは、フレッシュなフルーツと相性抜群。

清喜さん:「かっこよく言うと起業だけど、そんなふうには全く捉えていなくて。なんだかやれそうな気がする、ってそれだけでしたね。当時、個人経営のチーズ屋さんはほとんどなくて、本当に売れるかどうかもわかりませんでした」

祐子さんのご実家が群馬だったことから、この地域での開業を決意。東京に住みながら群馬に通い、1年越しで今の物件を見つけました。

清喜さん:「物件検討時、大きな窓ガラスと、目の前の公園が素敵だなと思って、近くの喫茶店でゆっくり1日過ごしてみることにしたんです。先輩ご夫婦がやっているお店で、この方たちがここでやっていけるなら大丈夫だろう、と決めました」

祐子さん:「25年前、当時周りはほとんど田んぼでしたね。SNSももちろん発展していなくて、集客は口コミ頼り。それでもびっくりするくらいお客様が来てくれて。通りすがりで入ってきてくれる方も多いんですよ」

楽しそうに話すお二人。明るい人柄も、このお店に人が集まる大きな理由のひとつです。

チーズの取り扱いは常時50〜60種類

モンテドラーゴが取り扱うチーズは、フランスやイタリアなど海外から輸入しているものを中心に、常時50〜60種類。現地の天候や、チーズの状態に合わせて、店頭に並ぶラインナップは日々変わり続けます。

清喜さん:「とにかく品揃えだけは減らしたくなくて、オープン当初からさまざまな商品を扱ってきました。今日はヤギのチーズの種類が豊富です。棒状、丸、四角など形がさまざまで、小ぶりなのが特徴なんですよ」

祐子さん:「賞味期限が短いものや、入ってくる数が少ない商品もたくさんあるので、その場での出会いを楽しんでもらいたいですね。常連さんには『お好きそうな商品が入りましたよ』と連絡することもあるのですが、なんだか毎回タイミングが合わなくて買えないという方もいます」

【シェーヴルタイプチーズ】形がさまざまで、小ぶりな山羊乳製チーズ。保湿のために葉っぱに包まれたものや、木炭粉をまぶして熟成させたものも。ほどよい酸味と、きめ細かい食感とコクが魅力。

熟成具合や切り方によって味わいが異なるのも、チーズの魅力のひとつ。薄くスライスするのと塊で食べるのとでは、まるで風味が変わります。

【青カビタイプチーズ】内部の隙間に青カビを繁殖させて熟成。塩気が強くはっきりした味わいが特徴で、ドライフルーツやハチミツなど、甘いものと合わせるのがおすすめ。

祐子さん:「チーズは香りも楽しむ食べ物。俗に言う『臭いチーズ』も臭いと思うか、かぐわしいと思うかって本当に人それぞれだし、紙一重ですよね。だからこそ好みを聞きながらご提案します。『エポワス』というウオッシュタイプチーズは、毎週1〜2個必ず出る人気商品。クセはありますが、好きな人は本当に好きな味で、納豆にも似た味わいなんです」

【ウオッシュタイプチーズ】表面を塩水や地酒などで洗って熟成させたもの。表皮は薄く湿り気があって、匂いが強く、ねっとりした食感。納豆にも似たクセになる味わい!右上が人気商品のエポワス。

清喜さん:「フレッシュチーズは、鮮度や輸送の関係から扱うのがとても大変で、生産量も減っています。美味しいものになればなるほど輸入するのが難しいし、賞味期限も短くリスクも大きい。この『ブラッティーナ』というフレッシュチーズは、半年ぶりに届いたんですよ」

祐子さん:「ティラミスのイメージが強いマスカルポーネは、もともとのミルクの甘みを生かしてこそ食べたいチーズ。シンプルに食パンに塗るだけでとても美味しいです」

【フレッシュタイプチーズ】モッツアレッラチーズやリコッタチーズ、マスカルポーネチーズなど、熟成させないで食べるチーズ。シンプルに塩胡椒だけで味わうもよし、料理やケーキの食材としてアレンジしても楽しめる。前列中央が、取材時半年ぶりに届いたブラッティーナ。

生活に寄り添うチーズを、もっと気楽に

「チーズを選ぶ」と言うと、ハードル高く感じる方も多いかもしれませんが、このお店では一切の心配なし。お二人とおしゃべりしながら、ゆっくり考えられるのが嬉しいポイントです。

清喜さん:「こんな親父が喋っているだけなので(笑)。いっぱい買わなくていい。まずは一個でいいんです。その方がチーズを楽しめるし、値段が大事なわけでもない。まず話して選んだものを食べてみて、食べ終わったらまた来てくださいって。そこは必ず伝えるようにしていますね。もちろんおしゃべりだけして、買わなくても大丈夫です!」

祐子さん:「おしゃべりでつい時間がかかっちゃうから、ゆっくり時間があるときに来てもらう方がいいかもしれないです(笑)。そういうお店って今の時代あんまりないのかもしれないけど、なんのために始めたのかって原点を思い出すと、やっぱりお話しながら楽しくチーズを選んで欲しいなって。チーズについて詳しくなくていいし、すぐにこれって決めなくていい。何にも考えずに、気軽に来て欲しいですね」

祐子さん:「最初は『初めて来たんですけど』と声を掛けていただくことが多いですね。そこからお話を聞いて、塩味の好みを聞いたり。どんなシーンで、どんなものと合わせるのか。あまり限定しすぎないように、隔たりをつくらないようにご提案しています」

清喜さん:「チーズは特別なものではありません。フランス人にとっては、日本人のお漬物のように毎日食べるもの。気軽に食卓に乗せてもらえればいいな、と思っていて。合わせるのもお酒だけでなく、パンとかソフトクリームとか、本当になんでも良いと思うんです。そのオールマイティさもチーズの魅力です」

気軽にチーズを楽しんで欲しい、お店に立ち寄るきっかけになれば、とチーズをトッピングしたソフトクリームの販売を始めたのは2021年。こちらもモンテドラーゴの人気商品になりました。

削りたてのパルミジャーノレッジャーノがこぼれるほど乗った、チーズトッピングソフトクリーム。これを目当てに遠方から来る人も多数。採算度外視したこだわりの濃厚ソフトに、バルサミコ酢とオリーブオイルの豊かな香りがよく合う。

清喜さん:「開店から25年経っても、新規のお客さまがいるのは本当に嬉しいことです。お店を見つけてくれて、来店してくれるだけで十分なので、絶対になにか買わなくちゃと意気込まず、自分にとってのお気に入りを見つけてもらえたらと思います」

店内にはチーズの他に、パスタや生ハム、オリーブオイルなど、相性の良い食材も。

祐子さん:「よく親御さんと一緒に来てくれる、三姉妹の小さな女の子たちがいるんですけど、ゴーダチーズやコンテチーズをたくさん食べるんです。知識とかなんだっていうのでなく、美味しいから好き、食べたいから食べる。って本能で美味しいチーズを楽しんでくれていて。この間は友達と向かいの公園で遊んでいる途中で、ツカツカっと入ってきて『ソフトクリーム買いたいんだけど!』って。結局買わなかったけれど、なんだかとても嬉しかったですね」

【ハードタイプチーズ】薄くスライスしても、大きめの塊で食べても美味しい。熟成具合によっても味わいが異なり、若いものだとしなやかな弾力とやさしい風味が。18ヶ月以上など長期熟成させたものは、白い結晶があり、凝縮した旨みとコクを味わえる。

なんだか背伸びしていたかもな。知らず知らずのうちに、チーズという食材をどこか難しく考えすぎていた自分に気付きます。もっと気楽に。もっと柔軟に。知識がなくても、ここに来たらきっとお気に入りのチーズに出会えるはず。少しの勇気で扉を開けて、食卓を豊かに彩る美味しいチーズを、もっと気楽に味わってみませんか?にこやかなお二人との楽しいおしゃべりが待っています。

フロマージェリー モンテドラーゴ
群馬県高崎市江木町1471-2
https://www.monte-dorago.com/
https://www.instagram.com/monte.dorago/


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